ぼくのおもいで

僕が高校3年間で1番思い出に残っていることは、国際体験学習だ。

国外への旅行を通じてこれまでに触れたことのない文化や風習に触れることで教養を深め、日本という我々の母国を見つめ直すことが、この国際体験学習の目的であった。

我々が旅行に求めることというのは、普段の生活ではできないような体験、つまり、非日常的な体験である。我々が赴いたシンガポールとマレーシアは、その欲求を十分に満たしてくれた。マーライオンなどの観光地は言うまでもないが、道や店、路傍に生えた雑草でさえ、日本での生活に慣れきった僕にとっては新鮮であり、刺激的であった。

現地の大学生と会話をすることがあった。英語力に不安のある僕に対し、我々のガイドとなった彼女は、日常会話をするには申し分ない日本語を会得していたため、それに甘んじて会話のほとんどを日本語で行った。日本語で話しているとはいえ、相手は外国人であり、価値観やこれまでの経験などには大きな相違があるので、どんなに些細な話も刺激的で印象に残っている。それは彼女にとっても同じであったに違いない。

残念だったことは、今回訪れた国の、ごく一部しか垣間見ることができなかったということだ。バスによって決められた場所に移動し、時間になれば再びバスに乗って次の目的地へ向かう。この繰り返しに僕は、まるで映画でも観ているかのように、情報を一方的に押し付けられているような感覚に陥った。我々が宿泊したのは、おそらくシンガポールでトップクラスのホテルのかなり高い階層の部屋であった。窓からはいま自分がいる場所一帯を一望に収めることができた。どの方角を見ても高い建物が立ち並び、僕の都会のイメージのそのままであった。僕はこの景色がどこまでも続くと無条件に信じてしまっていた。路地裏の様相が目に入った時、僕は落胆した。僕はこの国の表面しか見ていなかったのだ。